ルールメイキングとパブリックアフェアーズ – イノベーションを加速する新たな手法
近年、技術革新が急速に進展する中、新しい技術やビジネスモデルに対応するためのルール形成の重要性が増しています。従来、規制や制度といったルール形成は公的な領域と考えられていましたが、現在では民間企業が積極的に関与する「ルールメイキング(rule making)が注目されています。
ルールメイキングとは
ルールメイキングとは、企業やNPO・NGOなどの民間団体が、政府や世論に対して行う社会の機運醸成やルール形成のための働きかけ活動を指します。従来の密室での陳情やロビイングとは異なり、アカデミア、メディア、市民社会を巻き込み、よりオープンで公益性のあるアプローチを目指しています。
ルールメイキングの重要性
イノベーションの加速に伴い、新しい技術やビジネスモデルを社会に実装するためには、既存のルールを見直し、新たなルールを整備する必要性が高まっています。例えば、自動運転や宇宙開発、代替肉など、技術革新が進む分野では、法規制などの既存のルールが障壁となる可能性があります。このような状況において、新しい分野の最前線にいる企業が、ルールメイキングに関与することで、イノベーションの社会実装を促進できます。
パブリックアフェアーズの手法
ルールメイキングを実践するための手法として、「パブリックアフェアーズ(Public Affairs)」が注目されています。パブリックアフェアーズには、政策調査、政策提言、ロビイング、セクター間連携、メディアリレーションズなどの活動が含まれます。政府関係者や有識者、メディアなどのステークホルダーとの対話を通じて、社会課題の解決や新市場の創出を目指します。
ロビイングとは、企業や業界団体が、自社や業界に有利となるよう、政策決定プロセスに働きかけを行う活動を指します。議員や政府関係者への直接的な働きかけのほか、世論形成を目的としたメディアリレーションズなども含まれます。
日本におけるルールメイキングの動向
日本でも、ルールメイキングやパブリックアフェアーズの重要性が高まっています。経済産業省は、ルールメイキングを活用した社会課題解決型ビジネスの創出に取り組んでおり、企業の「市場形成力」を研究しています。IT業界を中心に、ロビイストやパブリックアフェアーズ専門家の需要が高まっています。
具体的な事例
以下は、民間企業がルールメイキングに参加した具体的な事例です。
- ソニーによるFeliCa規格の国際標準化
ソニーは、非接触ICカードFeliCaの通信規格を国際標準化することで、モトローラからのWTO政府調達協定違反の異議申し立てを退け、JR東日本へのSuiCaの導入を実現させました。 - 抗菌製品のガイドライン策定
抗菌剤・抗菌加工製品メーカーが抗菌製品技術協議会を発足し、抗菌の試験方法のJIS規格化を実現しました。さらにISO規格化にも成功し、国内外の抗菌市場の健全化と競争優位性の確保につながりました。 - 大成プラスによるナノテク接合技術のISO規格化
中堅企業の大成プラスは、自社の開発したナノテク接合技術の評価方法について、協業先の三井化学などと連携し、ISO規格化に取り組みました。 - iFixit社によるスマホ修理権利の推進
iFixit社のCEOカイル・ウィーンズは、議員のスマホを無料で修理しながら修理の必要性を訴え、「修理する権利」を世界に広めるロビー活動を行いました。 - Luup社による電動キックボード規制緩和
電動キックボードシェアリングのLuup社は、自治体に働きかけマイクロモビリティ推進協議会を設立し、道路交通法の改正に成功しました。
ルール形成への民間企業参加のメリット
民間企業がルール形成に参加することには以下のようなメリットがあります。
- 新しい技術やビジネスモデルの社会実装を促進
自社の製品・サービスに関連する規制や基準を見直し、新たなルールを整備することで、イノベーションの実現を後押しできます。 - 業界の健全化と自社の競争力強化
業界全体のルール策定に関与することで、公正な競争環境を整備し、自社に有利な規格や基準を設定することができます。 - 社会課題解決とビジネス展開の両立
社会課題解決のためのルール形成を通じて、新たな市場を創出し、企業の社会的役割を高めることができます。 - ステークホルダーとの対話を促進
政府、有識者、メディア、市民社会などと対話する機会が増え、自社の製品・サービスの社会的価値を伝え、世論の支持を得やすくなります。 - 公益性と公正性の追求
オープンでマルチステークホルダープロセスを経ることで、公益性と公正性が担保され、企業市民としての責任を果たし、社会からの信頼を高めることができます。
国際規格化への参加のメリット
民間企業が国際規格化に参加することにも多くのメリットがあります。
- 新しい技術の社会実装を促進
自社の製品・サービスに関連する規格策定に関与することで、新技術の普及を後押しできます。 - 業界の健全化と自社の競争力強化
業界全体の公正な競争環境を整備し、自社に有利な規格を設定できます。 - 製品・サービスの質の向上と企業イメージ向上
規格への適合を通じて製品品質を高め、企業の信頼性や社会的評価を高められます。 - コスト削減と経営効率化
規格化による製品の標準化で、生産コストや在庫コストを削減し、経営の合理化が可能になります。 - 新興国市場への参入が容易に
国際規格への適合は新興国市場でのビジネス展開の前提条件となります。 - 多様なステークホルダーとの対話の促進
規格策定プロセスに政府、業界団体、NGOなど幅広い関係者が参加し、相互理解を深め、社会的な受容性を高められます。
まとめ
ルールメイキングとパブリックアフェアーズは、イノベーションの社会実装を促進する新たな手法として重要性が高まっています。企業や関係者は、この分野への理解を深め、積極的に関与することが求められます。これにより、イノベーションの促進、競争力強化、社会課題解決など、多くのメリットを享受できるでしょう。