延長措置も?”オープンイノベーション促進税制” ベンチャー出資時の減税制度とは?
2021年8月22日、政府はデジタル分野などで先進的な技術やアイデアを持つベンチャー企業に出資する企業を対象にした減税措置『オープンイノベーション促進税制』について、2021年度までの期限を延長する検討である報道が出ました。年末に行われる与党の22年度税制改正の議論で焦点の一つとなる見通しで、経済産業省は、8月末に取りまとめる22年度税制改正要望に制度延長を盛り込む方向で調整中であるとともに、減税対象の拡充を求めることも検討しています。
本コラムでは、この『オープンイノベーション促進税制』について解説します。
オープンイノベーション促進税制とは?
国内の対象法人等が、オープンイノベーションを目的としてスタートアップ企業の株式を取得する場合、取得価額の25%を課税所得から控除できる制度です。
所得控除上限額は1件当たり25億円以下、対象法人1社・1年度当たり125億円以下となっています。
※経済産業省ホームページより引用・転載
出資行為の要件
以下の要件を満たす出資である必要があります。
1件当たりの規模:
〇大企業は1億円以上
〇中小企業は1,000万円以上
〇海外企業への出資は一律5億円以上
払込みの期間:令和2年4月1日~令和4年3月31日
※純投資ではなく、オープンイノベーションに向けた出資である
対象法人の要件
本税制の対象法人は、国内の事業会社とコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)です。以下のいずれにも該当するものとなります。
①青色申告書を提出する法人
②スタートアップ企業とのオープンイノベーションを目指す法人
③株式会社である
対象法人が主体となるCVC(対象法人の出資比率が過半数を占める、以 下の類型のいずれかに該当する投資事業有限責任組合(LPS)または民法上の組合)を経由して出資する場合も対象となります。
※経済産業省ホームページより引用・転載
スタートアップ企業(出資の受け手側)要件
本税制において対象法人・CVCの出資対象となるスタートアップ企業は、以下の①から⑨の要件を満たす法人となります。外国法人であっても、以下の要件を満たす法人に類するものとして認められる場合には、出資を受ける対象となります。
①株式会社である
②設立10年未満である(※1)
③未上場・未登録である(※2)
④既に事業を開始している
⑤対象法人とのオープンイノベーションを行っている又は行う予定である
⑥一つの法人グループが株式の過半数を有していない
⇒法人グループにおける出資割合の算定対象は、子会社、孫会社、曾孫会社まで。
⑦法人以外の者(LPS、民法上の組合、個人等)が3分の1超の株式を有している
⇒LPSや民法組合、個人投資家など、法人以外の者による出資割合が合計3分の1超である必要がある。
⑧風俗営業又は性風俗関連特殊営業を営む会社でない(※3)
⑨暴力団員等が役員又は事業活動を支配する会社でない(※4)
<注意点>
※1 会社登記上の設立日を起算日とした出資日(現金の払込み日)までの年数により判定。
※2 金融商品取引所に上場されている株式又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されている株式の発行者である会社以外の会社。
※3 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に規定する風俗営業・性風俗関連特殊営業。
※4 暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律に規定する暴力団員及び暴力団員でなくなった日から5年未満の者。
出資要件の概要
本税制では、オープンイノベーションに向けて5年以上の株式の継続保有を見込んで、一定額以上の現金の払込みによりスタートアップ企業の新規発行株式を取得する行為が対象となります。
具体的には、以下の5点が要件となります。
①資本金の増加を伴う現金による出資であること
②1件あたり1億円以上の出資であること
※対象法人が中小企業の場合:1,000万円以上
スタートアップ企業が海外法人の場合:一律5億円以上
③オープンイノベーションに向けた取組の一環で行われる出資であること
④取得株式の5年以上の保有を予定していること
⑤純出資等を目的とする出資ではないこと
●所得控除の上限額は、1件あたり、25億円(1回の払込みの額のうち100億円までが税制対象。)
●一事業年度内あたり、125億円まで(同じ事業年度内の出資額の合計は500億円まで(1回の払込みの額が100億円を超える案件は100億円として計算)がその年度における税制対象。)が対象。
海外スタートアップ企業への出資の扱い
本税制では、海外のスタートアップ企業への出資も対象となりますが、1件当たりの出資額は一律5億円以上である必要があります。
ただし、出資者は国内の対象法人又はその国内CVCである必要があります。
※経済産業省ホームページより引用・転載
オープンイノベーション要件の確認
本制度のオープンイノベーションとは、対象法人がスタートアップ企業の革新的な経営資源を活用して、高い生産性が見込まれる事業や新たな事業の開拓を目指す事業活動をいいます。具体的には、以下の3点を満たすことが必要です。
①対象法人が、高い生産性が見込まれる事業または新たな事業の開拓を目指した事業活動を行うこと
②①の事業活動において活用するスタートアップ企業の経営資源が、対象法人にとって不足するもの、かつ革新的なものであること
③①の事業活動の実施にあたり、対象法人からスタートアップ企業にも必要な協力を行い、その協力がスタートアップ企業の成長に貢献するものであること
特別勘定の経理と出資後5年間にわたる特別勘定の扱い(申請手続き)
本税制による所得控除を受けるためには、対象となる取得株式(特定株式)の25%以下の金額を、特別勘定として経理する必要があります。また、本税制は、スタートアップ企業との継続的なオープンイノベーションを目的として行う対象法人の出資に対して税制上の支援を行うものであるため、対象法人は、その株式取得の日から5年間は特別勘定を維持する必要があります。このため、5年以内に対象法人が任意に特別勘定を取り崩した場合、その取り崩した金額を、取り崩した事業年度の税務申告において益金算入する必要があります。このほか、5年の間に対象法人がスタートアップ企業とのオープンイノベーションを継続していると認められない等の場合にも、特別勘定を取り崩さなければならず、その取り崩した金額を、取り崩した事業年度の税務申告において益金算入する必要があります。なお、所得控除を行った翌事業年度以降も5年間、引き続きスタートアップ企業とのオープンイノベーションに向けて取り組んでいることを毎事業年度末に経済産業大臣に報告し、継続証明書の交付を受ける必要があります。
※経済産業省ホームページより引用・転載
まとめ
新しいビジネスモデルや革新的な技術を持つスタートアップに投資を行っていくことで、スタートアップ企業の活性化、またイノベーションを起こしやすくすることを狙っています。
企業の出資への減税措置には慎重な意見が多いため、延長の場合は「極めて異例」という印象ですが、経済産業省によると、これまでに100件を超える案件が適用されており、新たな取引先の開拓を目指す自動車部品メーカーが航空宇宙産業のベンチャーと連携した事例などが出ているそうです。海外では航空機関連のスタートアップの出資が加速しており日本市場でも期待をしていきたいですね。
スタートアップ、ベンチャー企業の受け手側の課題として、出資元の企業の影響力が強くなることを避けるため、大規模な投資の受け入れに慎重な場合があります。(いわゆるコーポレートガバナンス)
このため、大企業などから比較的小規模な投資も受けられるように1億円以上となっている出資額の要件の引き下げを求める声があり、それら要件の採択の有無にも注目です。
EXPACTでは、スタートアップ、ベンチャー企業の資金調達、事業拡大・効率化に伴うM&A、事業承継や事業再生などの助言業務を行っており顧客視点で最善のアドバイスを実施させていただきます。些細なことでも話を聞いてみたいという方は気軽にお問い合わせください。